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女性外来女性外来

千葉県立東金病院における女性専用外来のあゆみ

     

    竹尾 愛理1)5)、平賀 幸枝2)、大西 眞澄3)、平井 愛山4)
    千葉県立東金病院 内科1)、外来看護師長2)、看護部長3)、院長4)
    千葉大学大学院医学研究院細胞治療学5)

    はじめに

    千葉県立東金病院(以下当院と略)は都道府県立病院としては全国で始めて、女性特有の疾患に対応するため、平成13年9月より総合的な女性の医療サービスの提供を目的に女性専用外来を開設した。これは同年4月に千葉県知事に就任された堂本暁子知事の要請を受け、新たな保健医療福祉行政の一環として、性差に基づく医療(gender-specific medicine)の整備推進を目的にはじめられたものである。平成14年1月には、千葉県は、堂本新知事の強力なリーダーシップのもと、今後10年間の千葉県の保健医療政策の基本方針である「健康ちば21」を策定した1)。この「健康ちば21」の特色は「根拠に基づいた保健医療行政(医政)」の構築と実践を目指して、千葉県の保健医療に関する現状分析を行い、今後行政が取り組むべき課題を明示した点にある。特に女性の健康と医療に関しては、性差に基づく医療の視点から独立したひとつの章を設け、具体的な提言を行っている。当院の女性専用外来の開設は、この「健康ちば21」に基づく一連の保健医療政策の一環として捉えることが極めて重要である。

    1.性差に基づく医療について
    当院の女性専用外来の開設に当たり、基礎の考え方となったのがgender-specific medicine(性差に基づく医療)である。これは1990年代よりアメリカを中心に広がってきた新しい医学・医療の流れである。この考え方は、医療を受ける側の性差や薬剤への反応性などの個人差を考慮せず画一的に施行されてきたこれまでの医療に対する疑問・反省から生じたもので、産婦人科的な疾患以外にも病態、診断、治療において性差による相違の存在、及び性差を考慮した医療が必要だという考え方である。
    女性特有の疾患としては、産婦人科疾患以外にも種々の疾患、病態において疫学的に性差があるところが広く知られている。たとえば、女性ホルモンの急激な減少による更年期障害は、個人差があるものの、多彩な症状として顕れるため、女性の生活の質(QOL)を著しく低下させる。代表的な症状としては急激なのぼせ、ほてり、発汗などの血管運動神経症状、うつ、倦怠感などの精神症状、尿失禁、萎縮性腟炎などの泌尿・生殖器症状などがある。
    骨粗鬆症は更年期以降にあらわれる病態として最も重要な問題のひとつである。エストロゲンは破骨細胞の抑制を通じて、妊娠および出産において大量のカルシウムを失う更年期以前の女性の骨密度を保つ役割を果たしている。ところが、閉経後の女性においては、エストロゲンの急速な減少のため、男性と比較して急激な骨密度の減少が見られる。この結果、骨粗鬆症が進行し、骨塩量が骨折危険域に低下するため、腰椎や、大腿骨頚部骨折の発生頻度が70歳以上の高齢者では男性の約2倍と増加する。これは女性における寝たきりの原因として深刻な問題である。また寝たきりになったお年寄りの予後は不良であることから、早期からの骨粗鬆症対策は高齢者において自立度を確保し、健康寿命の延伸を図る上で極めて重要な問題である。
    一方、悪性疾患としては、乳がん、子宮頸癌、子宮体癌、卵巣癌などが女性特有の疾患として存在する。良性疾患で疫学的に性差が認められるものとしては、橋本病(慢性甲状腺炎)、バセドウ病(原発性甲状腺機能亢進症)などの甲状腺疾患、慢性関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群などの膠原病、アルツハイマー病などの神経変性疾患、気分障害などの精神疾患、微小血管性狭心症などがある。これらの疾患において明らかな性差が存在しているという事実は、日常の診断や治療の場において重要であるばかりでなく、今後病因、治療などとも関連して医学的な研究課題として積極的に取り組まれることが期待される。

    2.『健康ちば21』について
    急速に進む少子高齢化の中で、生活習慣病の一次予防を中心に厚生労働省が推進している健康づくり運動が『健康日本21』である。平成12年に全国版として策定されたのを受けて、その都道府県版の策定が順次進められている。千葉県においては平成12年11月より策定のための一連の作業が開始され、様々の疫学的エビデンスの集積が図られた。当院の平井院長はこの専門委員会の委員長として、膨大な疫学データの収集とその分析および課題の絞込み作業に携わっていた。平成13年5月、当院で女性専用外来を立ち上げることが決定した頃には、ちょうど千葉県の女性の健康と医療の現状分析を進めていた時点でもあり、当院の女性専用外来が目指す具体的な目標の設定やそれにあわせた診療機能の整備等を進める過程で、疫学的視点および医療政策的視点を導入する好機となった。このことはその後の千葉県立病院における女性専用外来の方向性、すなわち県が進める医療政策の一環としての女性専用外来のあり方を規定した点において極めて重要である。
    『健康ちば21』の策定の過程で明らかになった、千葉県の女性の医療と健康に関する問題点は以下のようなものである。

    (1) 動脈硬化性疾患の死亡原因にしめる割合は女性が男性よりもかなり高い。
    男女で死亡原因に大きな違いが見られたのが、主要な3大死因であるがんと心疾患・脳血管疾患の比率である。心疾患も脳血管疾患もいずれも動脈硬化症を基盤に発生する疾患である。男性ではこの比率が1.15とがんが動脈硬化性疾患に対して優位であるのに対して、女性は0.73と男性とは逆に動脈硬化性疾患ががんに対して優位であることが判明した(図1)

    (2)千葉県の女性は閉経後高コレステロール血症が急増する。
    高コレステロール血症は動脈硬化症の最も重要な危険因子である。高コレステロール血症には、著しい性差があることが判明した。男性では40歳代にピークがあり、それ以降は減少する。一方女性においては、40歳代までは、いずれの年齢層においても、男性の半分以下であるのに対して、閉経後、女性の高コレステロール血症の頻度は急増し、50歳代ではほぼ50%が高コレステロール血症であり、70歳代までいずれの年齢層においても女性が男性を上回っている。(図2)

    (3)千葉県の働き盛りの女性の死亡原因の半分はガンであり、なかでも乳ガンがもっとも多い。
    女性においては、働き盛りの世代(65歳未満)では、高齢者層(65歳以上)と比較して、がんによる死亡率が全体の47.6%と著しく高くなっていることがはじめて明らかになった(図3)。この世代層の死亡は家庭的にも、社会的にも影響が大きいものである。そこで、働き盛りの女性を襲うガンについて解析してみると、乳ガンが飛びぬけて多いことが明らかになった。また女性に特有なガンである子宮ガン、卵巣ガンも同様に働き盛りに集中していることが明らかになった。(図4)

    (4)千葉県の女性は乳ガンの死亡率が全国で4番目に高い。
    本県の乳ガンの死亡率(標準化死亡比:SMR)は全国4位と極めて悪い状況にあることも明らかになった(表1)

    (5)千葉県の若年女性のカルシウム摂取量は著しく低下している。
    老年期においても骨密度の適切な維持を保つ為には、20から30歳代での最大骨量が非常に重要である。しかしながら、最大骨量を規定する最も重要な因子であるカルシウム摂取量は、本県の女性では、15歳から20歳、および20、30歳代でいずれも500mg/日を下回っており、骨粗鬆症の予防の観点からきわめて大きな問題であることが明らかになった(図5)

    これらの疫学的事実に基づいて、『健康ちば21』では、今後取り組むべき課題と医療政策について特に『現状と課題』という一章を設け、詳細な提言を行っている。当院の女性専用外来の開始にあたっては、当面取り組むべき最優先の課題として乳がんの早期診断と骨粗鬆症の早期予防についての対策が必須であることから、乳がんの早期診断においてその有用性が高く評価されている高精度のマンモグラフィーと骨粗鬆症の診断には世界的なスタンダードとなっているX線骨密度測定装置を導入し、さらに専門医による乳腺外来と骨粗鬆症外来をあらたに開設することを決めた。なお、閉経後急増する高コレステロール血症については、すでに高脂血症専門外来を立ち上げてあったので緊密な連携を図ることとした。

    3.女性専用外来開設の目的および開設までの準備について
    (1)性差に基づく医療(gender-specific medicine)の考え方に基づき、女性特有の疾患の精査加療を行う。
    (2)診療は女性医師が担当し、話しやすい雰囲気作りに留意する。
    (3)初診時30分の診察時間を設定し、じっくりと話に耳を傾けると同時に、疾患についての背景も併せて、総合的な診療を行う。すなわち女性におけるトータルな医療を目指す。
    (4)当院が開設している専門外来である乳腺外来、高脂血症外来、骨粗鬆症外来、婦人科外来などとの連携をはかるとともに、地域の他の診療科及び女性医師との連携を行い、各専門分野の視点からする。
    (5)増加する女性医師の活躍の場としての位置づけ

    女性専用外来開始にあたり、当院では、カーテンで仕切られていた内科の診察室の入り口にスライド式ドアを設置し、窓をスリガラスに換えることでプライバシーへの配慮を行った。また、一足早く平成13年5月に女医外来を開設している鹿児島大学医学部第1内科への視察を行った。
    また、上述のように『健康ちば21』で明らかにされた千葉県の女性の医療・健康問題の課題に鑑み、女性に特有な疾患に対応するため、女医による女性専門外来を核として乳腺外来、骨粗鬆症外来、高脂血症外来などの専門外来がサポートし、看護部の全面的協力のもと、病院を挙げて女性の全身を診る診療体制を整えた3)(図6)
    担当は千葉大学大学院医学研究院細胞治療学(第二内科)齋藤康教授の全面的な協力により千葉大第二内科の女性医師が非常勤としてあたり、当初1名でスタートしたが、患者数の増加とともにまもなく3名に増員され、更に平成14年4月より常勤の女性専用外来専任医も配置された。また、4月より整形外科でも女性専用外来が開設された。 
    診療に当たっては日本におけるgender-specific medicineの提唱者である東京水産大学天野恵子教授(現千葉県衛生研究所長)の指導のもと、女性特有の病態についての理解を深めるとともに、診療体制を整えた。また、ウィメンズヘルスフォーラム21(WHF21)コーディネーターの薬剤師宮原富士子氏からは調剤薬局薬剤師へのホルモン補充療法などについての啓蒙普及活動が行われた。県民へのPR方法などについては、県民だよりや各市町村の広報を活用した。

    4.女性専用外来の診療の流れ
    当院における女性専用外来の診療の流れは以下の通りである。
    まず、受診希望の方は、当院内科外来担当看護師に電話で予約、相談内容について簡単に伝える。これにより予約。担当看護師は受診の順番が来た時点で再度受診希望者に連絡、受診日を決定する。
    受診当日、患者様は予約時間の30分前に来院して頂き、問診表に記入していただく。この問診表は女性専用外来の開設にあたりとくに準備されたもので、女性の健康状態について様々な角度から記入するようになっている。主訴、心配なこと、健康のために努力していること、健康診断受診の有無、参考にしているマスメディアなどから、更年期障害の症状の詳細について、ホルモン補充療法に対する知識、治療法の希望、更年期の時期を乗り切るに当たっての感想などを記入する欄が設けられている。この問診表を参考にしながら、問診を進めていく。問診表を基にしながら詳細な問診を行い、必要であれば、背景の家庭的、社会的な状況も含めて聞いていく。基本的には口を挟まず、まず、訴えを十分に傾聴する。場合によってはこれだけで体の調子が改善することもある。その後、診察、所見を取り、必要であれば、血液検査などを行い、投薬などを行うことになる点は一般外来と大きな差異はない。

    5.女性専用外来の受診者について
    女性専用外来は千葉県では初めての試みであり、平成13年9月から平成14年1月までに初診で訪れた99名についての概要を紹介する。まず、来院者の年齢は20歳から39歳までが16.2% 、40歳代が31.3%、50歳代が32.3%と閉経前後の女性が最も多かった(図7)。年齢層は10歳代から80歳まで広く分布していた。
    次に受診以前の通院歴について調べた(図8)。内科通院中或いは通院歴がある受診者が最も多く、当院内科が16.2%、他院内科が22.2%であった。次に多いのが婦人科で、他院婦人科通院中である受診者が17.2%であった。精神神経科或いは心療内科に通院中の方が14.1%であり、その他整形外科、複数の医療機関の受診歴を有しているものも多かった。主訴の症状での受診が初めてであるという患者さんはわずか16.2%であった。すなわち、8割以上の患者さんは当該の主訴についてすでに何らかの医療を受けているが、必ずしも満足のいくものではないことが明らかである。同様の傾向は当院に4ヶ月先行して女性専用外来を立ち上げた鹿児島大学附属病院第一内科でも見られている。
    受診の動機として主訴は不眠、いらいら、うつ傾向を訴えたものが23.2%、のぼせ、発汗、ほてりが20.2% 、頭痛、頸痛、肩こりが16.2%、易疲労感、だるさややる気の低下を訴えたものと胸痛や動悸、背部痛を訴えたものがそれぞれ10.1%、幻暈、不安精神症状及び婦人科のセカンドオピニオンを求める患者がそれぞれ9.1%であった(図9)。その他、冷え、消化器症状、乳腺疾患精査希望、ホルモン補充療法の説明希望の例など多岐に渡り、内科、婦人科、乳腺外科、精神科・心療内科などの複数科の連携が必要であることがわかる。
    来院者に施行した検査としては一般血液検査、血中エストラジオール、卵胞刺激ホルモン(FSH)などの内分泌機能検査が多く、必要に応じて骨代謝マーカー、甲状線機能検査などを施行した。骨密度測定(DEXA法)を25.3%、またマンモグラフィーを24.2% に施行、精査加療が必要な方については、それぞれ骨粗鬆症外来、乳腺外来を紹介受診した(表2)。ちなみに、骨密度測定およびマンモグラフィー検査全体における女性専用外来からの検査依頼の占める割合はそれぞれの検査について10%前後であった。このことは当院がgender-specific medicine 診療体制を整備したことにより、女性専用外来のみならず東金病院全体での女性に特有な疾患に対する診療機能が大幅に向上し、病院を挙げて「健康ちば21」で提示された課題に取り組んでいることを示している。
    診断については更年期障害が47%と最も多くを占め、気分障害(躁うつ病)、パニック障害などの精神神経疾患が14%、子宮内膜症、無月経、月経困難症などの産婦人科疾患や、それらのセカンドオピニオンを求める者が12%、乳腺疾患の精査希望が6%の順であった(図10)。そのほかの診断名として自律神経失調症、骨粗鬆症、筋緊張性頭痛などであった。なお、器質的疾患については11%を占めたが、頸椎症、高血圧症、胸痛で来院した狭心症、無月経で来院したシーハン症候群などもみられた。これらの病名については、受診後に診断されたものや、それぞれの疾患に関する詳細な説明を希望して受診した。
    治療は個々の病態にもよるが、漢方薬、カウンセリング(傾聴)、マイナートランキライザー、ホルモン補充療法、などを用いている(表3)。ホルモン補充療法については、受診後に開始したものが14.1%、以前に経験があるものが6.1%、受診時他の医療機関ですでに施行中で詳しいあり説明を希望する者が4%であった。漢方薬を使用したものが29.3% と多くを占め、更年期障害、婦人科疾患、冷えや肩こりなどに使用されていた。女性専用外来における漢方薬の有用性を示唆している。
    転帰としては、平成14年2月22日の時点で女性専用外来に通院継続中の者が43.4%であり、東金病院内科に通院中の者が11.1% 、改善し終診した方が11.1%、他院婦人科へ紹介受診が7.1%、他院内科へ紹介受診が5.1%であり、東金病院が55.5%、他院紹介が20.2%であった。治療中断が11.1%であった。時間の経過とともに軽快終診となるケースや他院へ紹介となるケースが多い。治療中の他科専門医への紹介先としては、産婦人科、精神神経科などであり、受診者の病態が多岐に渡ることから内科以外の医師との緊密な連携が必要であることを示している。紹介先の医師については必ずしも女性医師に限っているわけではないが、現在スムーズな連携が行われている。今後、更年期障害やホルモン補充療法など、女性に特異的な疾患、治療に更に理解のある医療機関が増加することで、連携が更にスムーズになるものと期待される。

    6.女性専用外来開設の反響と千葉県としての取り組み
    当院の女性専用外来の反響についてであるが、東金病院では、開設前より多数の予約が殺到し、平成14年6月初めの時点で延べ510名前後の予約数となっている。来院者には概ね好評であり、感想としては、診察時間がゆとりがあり、じっくりと話を聴いてもらえる、担当が女性医師であり話し易い、更年期障害についての診断、治療が受けられる、先進的な試みである、初めて更年期障害について納得する説明を受けた、骨粗鬆症や乳がんの検査が受けられるという感想が多かった。一方、予約数が多いため、受診までの待ち期間が長い、一人の診察時間が長く掛かる場合、診察までの待ち時間が長いという感想もみられた。
    当院の女性専用外来は全国の都道府県立病院として初めて開設されたこともあり、またスタート後は大いに好評を博したことから数々のメディアの取材を受けた。当院の女性のための新しい医療サービスの開始が広く紹介されると、また予約患者が増えるという事態になっている。予想を大幅に上回る予約患者数の増加により担当医が時を追って増員となり、本年4月より女性専用外来専任医も配置された。このような当院での先行事例での成功を受けて、千葉県は「健康ちば21」の具体的取組として、平成14年度の医療保健分野での重点事業の柱の一つとして女性医療の推進を取り上げ様々の施策を行っている。まず県下の2つの県立病院に女性専用外来を開設し、医療機器の整備(マンモグラフィーとX線骨密度測定装置の導入)を行った。また県下の複数の地域中核病院における女性専用外来の開設・運用の支援助成事業も開始された。現在までに、千葉県循環器病センターや国保君津中央病院を始め県立佐原病院、旭中央病院、県庁健康相談室、帝京大学附属市原病院、井上記念病院、亀田総合病院などで順次女性専用外来が立ち上がりつつある。一方、保健行政においては、本年4月より県内15箇所の保健所において、女医による女性のための健康相談(予約制・無料)が開始された。各保健所月2回のペースで、県下の各医療機関での女性専用外来を担当する女医を中心に対応している。さらに平成14年度当初予算において女性の健康と医療に関する疫学調査が予算化され、今後3年間をめどに、様々な疫学調査の実施に向けて検討が進められている。
    特筆すべきことは、女性専用外来の開設は千葉県内のみに留まらず、全国の病院において広がっており、県立東金病院では女性専用外来を開設予定の施設からの見学を受け入れている。

    7.女性専用外来の担当医と医療環境について
    これまでの10ヶ月間の女性専用外来の診療を通じて見えてきた診療に携わる医に求められる要件としては以下のような点があげられる。受診者の訴えに30分耳を傾けることができる傾聴の姿勢をまず大切にし、次に受診者の持つ多岐に渡る疾患に対処するため全身をしっかり観察し、循環器疾患、内分泌疾患をはじめとする内科の各分野を幅広くじっくり診ることが出来るようなジェネラルフィジシャンであることが求められている。また、性差に基づく医学・医療を実践する者であることから、女性に特有な悪性疾患や産婦人科疾患、あるいは精神科疾患に対する理解も必要である。現在このような視点からの医師の育成システムは我が国にはないため、先進諸外国の事例を参考にして、性差に基づく医療を実践する女性のジェネラルフィジシャンを育てるシステム作りが急務である。今後、人材育成の観点から、当院のような女性専用外来を推進している公的医療機関の果たす役割は大きいと考えられる。
    女性専用外来は、患者さんの総合的な診療を目指すことから、院内外の専門医との連携が必要になることがしばしばである。特に中小規模の医療機関における女性専用外来については、その必要度は高くなると思われる。また、コメディカルのスタッフとの協力は不可欠のものであり、看護師、薬剤師、栄養士、理学療法士などとの連携・協力体制を構築してゆくことが大切である。
    また、骨密度測定装置などの高額医療機器を地域の医療機関と共有・活用することにより、当該医療圏における性差に基づく医療のレベルアップを目指す地域医療支援の視点も大変重要である2)。当院では平成13年度に電子カルテを核とした「1地域1患者1カルテ」をめざす地域医療情報ネットワーク(わかしお医療ネットワーク)を構築したところである3)4)5)6)。今後は、ネットワークに接続する個々の診療所や開業医との連携のもとで、たとえば骨粗鬆症については診療所からオンラインでX線骨密度測定装置の検査を予約したり、診療所受診時に電子カルテ上のX線骨密度測定装置の画像をみながら、最新の診療ガイドラインにそって骨粗鬆症の診療をすすめていくことも可能になる7)。このようにして、病診連携をはかり、効果的かつ患者さんにとって質の高い医療サービスを地域全体で提供するよう支援してゆくことが地域中核病院としての重要な役目と考えている。

    8.女性専用外来の意味するもの:新たな個の医療サービスのあり方を求めて
    女性専用外来が現在これほどまでに話題を提供し、多くの受診者が診察を希望している理由について考察したい。
    まず第一に女性専用外来はこれまでにない形の、患者様の要望にそった新たな医療サービスを提供することがあげられる。これまで、種々の特有な症状が現われる更年期障害などの疾患は、「そのうちなおる」、「精神的なもので病気ではない」というように軽視されがちであった。また、主訴なども多岐に渡るため、医療者からも敬遠される傾向があった。その結果、充分な時間をかけた傾聴などが有用であるにもかかわらず、多忙な外来の中では、中々充分な診療時間をそのためにとることが出来ず、病気ではないと簡単に結論付けられたり、傾聴によらない投薬のみの治療となることが多かった。一方、更年期障害は個人差があるものの、人によっては重度の自律神経障害や精神的な症状のために生活の質を著しく低下していることもある。このような状況の中で、まず初診時30分の診察時間を設定し、傾聴に十分な時間をかけるようにしたこと、そして身体症状と精神症状について総合的に診療するという患者サービスのあり方が実は需要が非常に大きかったのではないかと考えられる。これまで診療の場がなかった、女性に特有な症状・疾病のための診療の場を当院の女性専用外来が始めて提供したという点がなによりも重要と考えられる。
    次に、更年期障害の診療体制の充実が挙げられる。更年期障害の治療として用いられるホルモン補充療法については施行する上で、乳がんの健診のためのマンモグラフィー及び子宮がん等の産婦人科的な悪性疾患の定期的な検査が不可欠である。当院では、女性専用外来開始の時点より千葉県の女性における疫学的なエビデンス(乳がん死が全国4位など)に基づき、骨粗鬆症や乳がんに対して有効な対応を可能とするため、新たにX線骨密度測定装置およびマンモグラフィーを導入した。これらの医療機器の導入により安心してホルモン補充療法を受けられる環境が整備されたことが重要である。上述したように、これらの新規導入された医療機器は、女性専用外来のみならず院内の他の診療科、専門外来から多くの検査依頼をうけている。また女性専用外来以外の専門外来(内分泌外来など)でも女性ホルモン補充療法が開始されている。このように当院に女性専用外来を中核にしたgender-specific medicine 診療体制を整備することにより、女性に特有な疾患に対する診療機能が病院全体として大幅に向上したことを強調したい。またその結果、「健康ちば21」に示された本県女性における医療と健康問題の解決に向けて、行政として具体的な一歩を踏み出したことは画期的なことであるといえる。
    次に、性差に基づく医療(gender-specific medicine)の実践の場としての重要性である。産婦人科疾患以外にも多くの疾患において疫学的、病態生理学的に性差があり、予防、診断、治療には性差を充分考慮して行う必要がある。ちなみに、前述のごとく、骨粗鬆症は閉経後の女性に多く、腰椎或いは大腿骨の骨折は女性の寝たきりの原因として重要である。そのほか自己免疫疾患、内分泌疾患、アルツハイマー病などの神経疾患などに性差が認められる。このような性差に基づく医学・医療の概念は欧米では10年ほど前から生まれており、多くの女性健康センターなどが設置されている。しかし、日本においてはまだようやく始まったばかりであり、当院の取り組みはわが国における性差に基づく医療サービスの嚆矢として広く注目されたものと思われる。これからの課題はわが国の性差に基づく医療を支え、実践する人材の育成である。
    最後に、個人のトータルな医療に対する要望が高まっていることが上げられる。換言すると、一人ひとりの患者様に合わせた「個の医療(パーソナライズドメディスン)」が時代の潮流になっていることが重要である。人の体は一つ一つの部分や臓器が独立して機能しているわけではなく、それぞれのつながりやバランスが大切であり、それが崩れることによって種々の疾病に罹患する。そのために、単一の診療科のみならず、必要があれば複数の診療科、専門外来の診療をうけながら治療を進めることが必要になってくる。上述のように女性専用外来は独立して機能するものではなく、他の診療科・専門外来との緊密な連携のもとで始めて機能するものである。また女性専用外来の診療に携わる医師のみならず看護師、薬剤師、保健師、栄養士、そのほかのコメディカルスタッフの連携も不可欠のものとなってゆくであろう。1人ひとりの患者をトータルに、総合的に診療する場としての女性専用外来のあり方が、患者のニーズに答える医療サービスの基本的なあり方、スタイルとしてこれから重要なものとなっていくことが期待される。まさに女性専用外来は女性のための『個の医療』という新しい医療サービスへ開かれた扉である。

    最後に、当院の女性専用外来を立ち上げるのに際して、ご指導、ご支援いただいた鹿児島大学第一内科鄭教授はじめ多くの方々に深甚な謝意を表する。

    参考文献

    1.http://www.pref.chiba.lg.jp/syozoku/c_kenzou/8zyosei/1kikaku/21/21top.html
    2.平井愛山:東金病院の改革の歩みと今後の展望−新たな医療連携システムを目指して− 千葉医学  76:323-335、1999
    3.山下 朱實、平賀 幸枝:女性専用外来のヴィジョンと看護の役割 ナースマネジャー 4(1):27-31, 2002.
    4.菅原郁郎:モデル事業の目的と意義−平成12年度補正予算事業の目的と意義− INNERVISION 16(7):78-82, 2001.
    5.開原成允:モデル事業推進の立場からの期待 INNERVISION 16(7):83-85, 2001.
    6.平井愛山:医療連携ネットワーク−ヒューマンネットワークとコンピュータネットワークの融合を目指して− BME 2001, 15(2):39-45, 2001
    7.平井愛山:病院情報システムにおける診療ガイドラインの活用 EBMジャーナル 3(4):60-66,2002
    8.平井愛山:電子カルテを中核とした新たな病・診・薬連携ネットワークの構築と展開-わかしお医療ネットワークの現状と展開-、INNERVISION 17(7) 

    Figure legends

    図1:千葉県民の主要死因の構成割合の男女比較(平成11年度)
    図2:千葉県民における動脈硬化性疾患の現状
    図3:千葉県の女性の主要死因の構成割合の年齢層比較(平成11年度)
    図4:千葉県民の各ガンの65歳未満における死亡率:早世係数(%)
    図5:千葉県女性におけるカルシウム摂取量の年齢別比較
    図6:東金病院が目指すGender-specific Medicine 診療体制
    図7:受診者の年齢分布
    図8:来院者の受診歴
    図9:来院時の症状別頻度(複数回答可)
    図10:女性専用外来受診者の疾患分類

    表1:千葉県におけるガン死亡の全国の位置づけ
    表2:女性専用外来受診者における検査について
    表3:女性専用外来受診者における治療法について


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